歯周病とは
歯周病は日本人の中高年の約８割以上が罹患しているともいわれます。かつては「歯槽膿漏」と呼ばれ、歯ぐきから膿が出て、最後には歯を失ってしまう口の中の病気として扱われてきました。
確かに歯周病の直接の原因となるのは口の中の歯周病菌なのですが、1980年代以降、菌だけではなく、さまざまな要因が関与していることが分かってきました。その要因とは全身的疾患のほか、喫煙や不規則な食生活、過度のストレス、偏った食生活といった生活習慣、歯ぎしりといった癖などです。
歯周病には多くのサインがあります。歯ぐきが赤く腫れ、歯を磨いたら血が出る、歯がしみるというのはCMなども有名ですが、ほかにもあります。
歯に歯垢や歯石がたくさんついている、口の中がネバネバする、口臭がある、歯と歯の間に物が挟まる、歯がグラグラする、かたい物が噛めないといった症状に気づいたら、歯周病を疑い、できるだけ早く歯科医院を受診しましょう。
歯周病は全身疾患の原因にも？
最近の研究によって、歯周病菌は歯の周りの組織に影響を及ぼすだけでなく、心臓病や動脈硬化、肺炎などの全身疾患を発症させ、低体重児出産の原因となったり、糖尿病を悪化させたりすることが明らかになってきました。
歯周病になると、歯ぐきの中に歯周病菌が侵入します。そして歯周病菌が血管の中に入り全身を巡ります。すると、心臓の周りにある血管の壁に菌がとりついて動脈が硬くなったり、狭くなったりして「動脈硬化」を引き起こすのです。
そのまま放置していると、血液の流れが悪くなって心臓に血液が届かなくなり、最悪の場合「狭心症」や「心筋梗塞」で病院に運ばれることになってしまいます。
「糖尿病」と歯周病菌の関係はついては、互いに病気を悪化させる要因になっていることが分かってきました。血糖値が上がると歯周病が悪化するという相関関係にあると言われ、逆に歯周病治療を行うと血糖値が改善することもあります。研究が進み、歯ぐきの炎症で生じるサイトカインという物質が病気に関与していると考えられています。
サイトカインは妊婦には要注意の物質です。サイトカインが子宮の収縮を促すことで「早産」を引き起こすほか、胎児が成長不足となり低体重出産の原因となる可能性が指摘されています。
日本人の死因第４位である「肺炎」にも歯周病菌が関わっています。高齢者に多い誤嚥性肺炎は食べ物などを誤って飲み込むことでおきますが、肺炎を引き起こすのは食べ物などと一緒に気管に入った歯周病菌であることが分かってきました。
このため、口腔ケアや歯周病の治療をすると誤嚥性肺炎のリスクを減らせるといわれています。このように歯周病菌は命に関わる病気などの原因となるのです。また。歯周病は生活習慣病の1つですので、生活習慣の改善も欠かせません。
例えば、喫煙は歯周病を進行させる要因の1つとなります。ニコチンは歯肉の血管を収縮させるので、炎症を進行させたり炎症の回復を妨げたりします。歯周病の治療には禁煙も必要となります。
食事の際、よく噛んで食べることも大切です。なぜなら、よく噛むことで唾液の分泌が促されるからです。唾液には抗菌物質が多く含まれ、抗酸化作用もあります。
唾液によって、歯周病菌の活動を抑えることができるのです。適度な運動と充分な睡眠もストレスを解消し、体の抵抗力を高めてくれます。
このように、悪い習慣をなくし健康によい生活を送ることによって、歯周病治療の効果を高めることができるのです。自己管理と予防こそが最も効果の高い治療法なのです。
一度根本的な治療を行った口の中は、しっかりとメンテナンスを継続することで、虫歯や歯周病の再発のリスクを低く抑えることができます。
中には体質的に歯周病になりやすい方もいらっしゃるので、リスクをゼロにすることはできませんが、少なくとも生活習慣が原因の歯周病はかなり抑えることができるはずです。
一生涯、自分自身の歯で食事をとり続けることも夢ではないでしょう。歯周病は放置しているうちに勝手に治ることはありません。
適切な治療を受けずにいると、いずれは「もうこの状態では手遅れです」と歯科医師に宣告されてしまいます。家族から「口が臭い」と言われたことがある方、朝起きるとお口の中がネバネバし不快な思いをしている方、リンゴをかじると出血する方、仕事が忙しかったり体調がすぐれなかったりした時に歯が浮く感じがする方は歯周病が進行している可能性があります。
こうした方たちや他医院にて歯周病治療を繰り返しても症状が改善されない方は一度、当院で口の中に歯周病の原因菌がいるかどうか、顕微鏡検査を受けてみてはいかがでしょうか。
繰り返しになりますが、歯周病の原因は細菌です。
歯周病は感染症なのです。口の中に広がった細菌を適切な治療で確実に減少させ、さらには除去できれば歯周病は治すことができるのです。
保険診療と自費診療
歯科の治療には、保険診療のものと自費診療のものがあります。
なにがどう違うのかピンとこない人もいると思います。内科、外科などで自費診療の項目が見られる様になってきたのは最近ですが、歯科では昔からすべての治療が保険でカバーされておらず、自費診療の治療が多くありました。
近年、治療にクオリティを求められる方が増えてきたことと、多くの医療技術に進歩があったこと、保険診療の財源（国のサイフ）の口が固くなったことから、歯科における自費診療の項目は 以前より増えつつあります。
保険？自費？選択が必要なときは
日本の保険診療の起源、国民皆保険制度が施行されたのは、1961年のことです。国全体がまだ貧しく国民が十分な医療を受けれなかった時代において、貧富を問わず平等に医療が受けられることを目的に作られた制度です。
この制度では、都会でも田舎でも、同じ費用で同じ治療を受けることができます。世界に類を見ないこの素晴らしい制度によって、国民は気軽に医療を受けられる様になりました。この結果が、今の長寿国ニッポンを築き上げたのです。
しかし、保険制度にも問題点はあります。制度全体で言えば「病気でないと保険は使えない」「予防など、病気を防ぐ処置は保険外」という大問題があります。
また歯科おいては、「痛みを取る」ということが中心の制度であること、歯を徹底的に長持ちさせることは保険外で「ほどほどの治療をして、ダメなら抜いて入れ歯にする」方針なら保険が効く制度になっていることなど、大変大きな問題があります。
つまり、国民のニーズは「きちんと予防をする」「歯を大事にする」という方向にシフトしているのに、制度は高度成長期の仕組みを背負ったままなのです。
一方自費診療ですが、国が指定した材料以外のものを用いたり、国が定めた金額では収まらない治療法を用いたり、先端医療、再生医療などの新しい技術になると、保険が効かなくなってきます。
そのため、医学的な妥当性がある治療内容であっても「自費診療でないとできないこと」というものが生じてきます。
また自費診療の料金は、医院によって治療内容などが大きく異なるため、各医院で適切に設定することになっています。歯を大事にするための治療のほとんど、一部の入れ歯、歯を美しくするための治療、インプラント治療などが自費診療となります。
保険にするか、自費にするか、選択権は患者さまにあります。
そして、わたしたちには、その治療内容や違いについて説明する義務があります。選択が必要なときは必ずご説明いたしますので、遠慮なく疑問やご希望をおっしゃってください。
